先日、タルトタタン風のボンボンショコラを作ろうとしていた。
リンゴをどう中に入れるか調べてみると、
一般的な作り方の「正解」は割と明確だった。
リンゴは細かく刻む。
2〜3mm角くらいに。
その方がガナッシュになじむし、カットしやすい。
チョコレートコーティングも均一になる。
保存性も安定する。
製品としての完成度も高い。
おそらくショコラティエの評価としても、この方法が正しいだろう。
ところが考えているうちに、別のアイデアが頭をよぎった。
「いっそ15mmくらいのリンゴを一塊入れたらどうだろう」
当然、技術的には面倒になる。
均一性は下がる。
コーティングも難しくなる。
失敗リスクも上がる。
でも、その瞬間ふと思った。
食べる人は、本当に2mm角のリンゴを求めているのだろうか。
プロフェッショナルは、正しさを追求する。
それは悪いことではない。
むしろ必要なことだ。
お菓子なら再現性を高める。
システムなら安定性を高める。
業務なら標準化を進める。
経験を積むほど、人はバラツキを嫌うようになる。
例外をなくしたくなる。
扱いやすく、管理しやすく、不確実性を減らしたくなる。
気づけばリンゴは15mm角から
10mm角になり、
5mm角になり、
2mm角になる。
やがてピュレになる。
すべては正しさのためだ。
しかし、お客さんが覚えていることは少し違う。
「水分活性が安定していた」
という感想を聞いたことはない。
「コーティング厚が均一だった」
という感想もあまり聞かない。
代わりに聞こえてくるのは、
「リンゴがゴロッと入っていて驚いた」
だったりする。
記憶に残るのは、最適化された構造ではなく体験の方だ。
お客さんは技術を食べているようでいて、実際には価値を食べている。
これはお菓子だけの話ではない。
ITの現場でもよく見かける。
入力項目を整理する。
業務フローを標準化する。
データを正規化する。
権限体系を整理する。
どれも正しい。
しかし現場が本当に喜ぶのは、
「入力ルールが統一された」
ことではなく、
「3分で仕事が終わるようになった」
ことだったりする。
システム担当者の評価軸と利用者の評価軸は、必ずしも一致しない。
技術的な完成度が高いものと、利用者に価値を感じてもらえるものは、同じではない。
経験が増えるほど、私たちは改善が得意になる。
改善は大切だ。
しかし改善を続けるうちに、いつの間にか何のために改善していたのかを忘れることがある。
均一化のために価値を削る。
効率化のために魅力を削る。
標準化のために個性を削る。
そうやって、気づけば誰も不満は言わないが、誰も熱狂しないものが出来上がる。
もちろん、いつでも15mm角が正解という話ではない。
食品衛生も必要だし、システムの安定性も必要だ。
正しさを無視して良いわけではない。
ただ、ときどき立ち止まって考えたい。
いま私たちが磨いているのは、本当に価値なのだろうか。
それとも正しさなのだろうか。
タルトタタン風ボンボンショコラのレシピを見ながら、ふとそんなことを思った。
専門家としての正解は2mm角かもしれない。
でも、お客さんにとっての価値は15mm角かもしれない。
少なくとも私は、その15mm角のタルトタタン風ボンボンショコラを一度食べてみたい。🍎🍫